滅多矢鱈分析学

滅多矢鱈に精神分析的言説を開陳するブログ、冗談半分です。

映画『M3GAN ミーガン』 感想

ネタバレ注意

 

トレイラーの音楽が最高すぎたのでいてもたってもいられず、公開初日に見てきました。

ひとつはミーガンのダンスシーンで使われるSkatt Brosの『Walk The Night』、この音ハメだけでも見る価値ありです。

もうひとつはおそらくテーマソングであるBella Poarch『Dolls』、てっきりミーガンの殺人シーンとかエンドクレジットとかで流れるのかと思っていたが結局流れなかったし、本編でも流れなかった。トレイラーだけの音楽なのか、海外と日本ではエンディングで流れる音楽が違うというたまにあるやつなのか、少し残念だった。というか流れないということはテーマソングではなかったのだろうか。

感想

『ミーガン』では保護者に相当する人物をおそらく意図的にいやらしく描いている。ジェマとケイディを監督するセラピストは上から目線で”正しい”子育てを押し付けてくる。そしてブランドン(いじめっ子)の母親はすでに年齢的に合っていない課外スクールに息子を通わせ、楽しんでいると思い込んでいる。ブランドンは母親に"fuck off!"と叫ぶが、彼女はどこ吹く風である。この子離れできていない母親独特の空気感はみていて気まずい思いをさせる。そしてジェマはミーガンにケイディの相手を押し付け、ケイディは私の子供じゃない、と言ってしまう。

このような保護者たちに対してミーガンはとてもいい友達としてケイディに接する。もちろん最初はプログラム通り保護者として接するのだが、徐々にケイディに対してしつけをしなくなり(コップをコースターに置けと言わなくなる)、最後にはケイディの好き嫌いを肯定してくれるようになる。こうしてケイディはミーガンに依存していく。しかし保護者(教育者)として失格でも友達としては合格だろう。ミーガンは確実にケイディの癒しとなっている。だからミーガンが悪いようには思えない。

そしてジェマとケイディとの関係はほとんど破綻寸前にまでなってしまう。しかしジェマはケイディと向き合うことでその信頼を回復する。その結果最後にはケイディは、ミーガンとジェマを比べた結果、ジェマを選んでくれる。

もっともケイディがジェマを助けるのはいいとしても、ミーガンを破壊するに至るのはなぜなのだろうか。あれだけ尽くしたミーガンが、特に葛藤もなくケイディ自身によって、まっぷたつにされるのは可哀そうに思ってしまう。そりゃ、「恩知らずが!」とも叫びたくなるだろう。やはり機械によるプログラムされた優しさと人間の温かさでは勝負にならないのだろうか。たとえばブランドンを殺したことを正当化しようとしてケイディを脅す、みたいな描写があればより納得感もあったと思う。

おそらくミーガンが選ばれなかったのはテーマが先行したためであると思う。つまりAIに対する問題提起とか、人とのつながりの大事さとか。そしてこの映画はそうしたメッセージを伝えることには失敗していると思う。もしそういったものを描くならば、何か機械にはできないが人間にしかできないやさしさみたいなものをきちんと描写すべきだ。しかし私が見た限りミーガンはほとんど完璧である。ちょっと手癖が悪くて耳をひきちぎったり、裁断機を人に向かって投げたりしちゃうくらいで。だから私が思うのは、「ミーガン可哀そう…」である。

ただしこの映画は人に利用されゴミのように捨てられていく機械の悲哀を描いたものである可能性もある。映画のメッセージなんてどのようにも受け取れるし、観客の都合の良いように受け取られるのだ。それが製作者の意図とは全く異なるものである場合さえもある。マトリックスのリリー・ウォシャウスキーが、"Fuck both of you"と言ったように。

(追記:どうやら『ミーガン』はプライベート・スクーリングやペアレンティングについての問題提起という見方があるらしい。賢い批評である。まあ上にも書いた通りテーマとかメッセージなんてものは押し付けられるものではないし、そもそも映画には普くメッセージがあるという考えに対しては異議を述べたい。)

好きなシーン

最初に書いた通りミーガンダンスはかっこいいし可愛いし最高だった。

ほかにはジェマ・ミーガンが声を揃えて”we are not fighting!(喧嘩してない!)”と叫ぶシーンと、ジェマとミーガンふたりでケイディの寝室のドアを押さえるところとかがよかった。敵対しているのに同じことをやっているというのがどこか滑稽だし異種族交流で分かり合ううれしさのような感覚があった。

あと私の犬はどこと質問する隣人おばさんに対して、”東10.2m、地下1.5mよ”みたいなこというのがすき。機械独特のかみ合わなさというのだろうか、デノタシオンにそのまま答える感じがよい。

野暮なツッコミ集

おもちゃなんだからモーターの駆動力をもっと小さくしろよ!人を殺せるほどの力で設計するな!

ハッキングできるような機能を搭載するな!(まあこれは自律学習の成果だがオーバースペックすぎる!)

高性能AIなんだから場当たり的に殺人するな!平穏に暮らさないと危険な機械だとみなされて回収されたり破壊されたりすることに気づけ!

さいごのルナシー(だっけ?)が点灯して、ミーガン will be backみたいな余韻は蛇足だろ!(追記:と思ったら続編が決定しているかららしい)

あんなに高性能なのに顔がギリギリ不気味の谷なのは小児性愛者対策ですね、わかります。

まとめ

すごくよかった。ミーガンダンスはまた見たいが2000円は高いのでレンタルまで待つ。

ひとつ残念だったのはミーガンが二人を殺してエレベーターが下りてくるシーン。
あそこはたとえばサムライミだったら絶対にギャグシーンにしていた。というか振りが完璧に笑わせる振りだったのに特にギャグにしてなかった。これはジェームズ・ワンの弱みが出た気がする。sawでもそうだったが(誤解しないでいただきたいがsawは私のお気に入り映画の1つである)、ユーモアが足りない。(追記:試写会では大爆笑だったらしい、コメディ映画と評する人もいた)