滅多矢鱈分析学

滅多矢鱈に精神分析的言説を開陳するブログ、冗談半分です。

日本吃音協会に見るポリコレの限界【水曜日のダウンタウン】

現在、以下のツイートが話題になっている。

NPO法人 日本吃音協会【公式】SCW on Twitter

事実関係は次のようなもの。

NPO法人「日本吃音協会」が1日、公式ツイッターで「先日、NPO法人日本吃音協会はTBSに対して7月6日(水)放映『水曜日のダウンタウン』での放送内容に対する抗議文を送りました」と発表。SNSではお笑い芸人が「障害者にテレビでお笑いをさせないことこそが差別やろう」などと声を上げ、賛否両論、渦巻いている。

7月6日放送の同番組では「説教中の『帰れ!』額面通り受け取るわけにはいかない説 第2弾」を検証。右心臓の持ち主であるお笑い芸人、チャンス大城(47)が仕掛け人となり、後輩芸人のインタレスティングたけしを招いてドッキリを仕掛けた。番組では説教されるたけしが、しどろもどろになり口ごもる姿が放送され、SNSで「吃音では」と指摘する声が上がっていた。同協会はツイッターで「件の放送内容は、吃音者に対する差別と偏見を助長するもの」とし、「再発防止と番組制作の基準・指針の見直しを要求しました」と公表した。(日本吃音協会が「水曜日のダウンタウン」に抗議文 該当芸人は「またテレビジョン出たい」 SNSで物議を醸す - サンスポ)

ポリコレについての記事はいつか書くつもりであったので、丁度よい機会であるから、ポリコレの問題についてこの騒動を題材にして書いていきたい。

ポリコレとは何か

まずはその辞書的定義をみてみよう。

ポリティカル・コレクトネス(英: political correctness、略称:PC、ポリコレ)とは、社会の特定のグループのメンバーに不快感や不利益を与えないように意図された政策または対策などを表す言葉の総称であり、人種、信条、性別などの違いによる偏見や差別を含まない中立的な表現や用語を用いることを指す。(ポリティカル・コレクトネス - Wikipedia)

日本吃音協会の声明は典型的なポリコレ言説であることが分かると思う。

ただしこの定義はポリコレの本質をとらえることができていない。

ジジェクによれば、ポリコレとは礼儀(マナー、親切など)の領域を法制化しようとする試みである。

ここで問題となるのが礼儀というものの特殊な次元である。

礼儀とは純粋な内面的道徳と外面的合法性との両端の中間に位置するものであり、それは、厳密には行う義務はないがそれでも行うことが期待されるという曖昧で不正確な次元にある。

そしてこの次元で扱っているものは暗黙の語られない規則であって、私たちの自然な感受性に属するものだ。

ポリコレの不可能性

ポリコレとは曖昧で不正確な領域の法制化であるから、ポリコレ言説体制の下では、礼儀作法の外的規則に従うだけでは十分ではなく、「誠実に」他者を尊重し、自分の内心の信念の誠実さを常に吟味することが期待される。

この意味においてポリコレとはアキレスである。

アキレスは完全に人種差別・性差別のない社会という亀に到達することはなく、永久に自問自答に捕らわれたままである。人種差別や性差別から解放されたと思ったら、亀は少し先に進み、何が人種差別・性差別であるかを決める、より厳しい新たな基準が存在するのだ。(PANDEMIC! 2)

このようなポリコレの態度はパラノイア的である。

ポリコレの態度は、極端に言えば、原始精神病患者のようなもので、私たちが「こんにちは、よろしくお願いします」と挨拶すると、「本当に会えてうれしいのか、それともただの偽善者なのか」と、ほとんどパラノイア的に礼儀作法の真意を疑ってくるのである。(THE COURAGE OF HOPELESSNESS)

精神病の過程は、世界の総体がひとつの大きな謎として主体に立ち現れることで、それまであった現実の世界が失われ、最終的に妄想的隠喩によって安定化する水準が達せられる、というように進行する。

これは、日本吃音協会が水曜日のダウンタウンという番組がもつ謎めいた意味作用に対して妄想的に意味を与えていることを想起させるだろう。

このようなアキレス的不可能性に直面したポリコレは、その構造的な行き詰まりを他者に転嫁する。

ポリティカル・コレクトネスもまた、性差別/人種差別の「正しくない」他者に寄生し、否定的な言及に基盤を置いている。このため、ポリティカル・コレクトネスの主観は、永遠の自己嫌悪(自身の中に残る性差別や人種差別を探し出す)と傲慢(罪を犯した他者を常に叱責し裁く)の混合物と化している。(LIKE A THIEF IN BROAD DAYLIGHT)

このような傲慢さによって、本人を無視して抗議文を勝手に送るという暴挙を平然とやってのけてしまうことになる。